航空需要が旺盛になる中、今、課題になっているのが空港の地上業務を担う「グランドハンドリング」の人材不足です。すでに成田空港では一時、増便や新規就航の一部に対応する見通しが立たない事態も発生しました。業界は人手不足にどう対峙するのか、取材しました。
日本で一番忙しい空港、羽田空港。出発前の飛行機の周りには作業服で働くグランドハンドリングスタッフの姿がありました。グランドハンドリングとは、空港カウンター業務や航空機の誘導、荷物の積み下ろしなどの地上業務で、1便当たり10人以上が必要です。
「飛行機の近くでグランドハンドリングしていることが楽しい。公共交通機関を担うことにすごくやりがいを感じる」(「ANAエアサポートサービス」の木下翔偉さん)
グランドハンドリングはコロナ禍をきっかけに人材が流出。コロナ前のおよそ2万6000人から2割近く減少し、人手不足が喫緊の課題になっています。
羽田空港でグランドハンドリングを担う企業「ANAエアサポートサービス」の鴨田純一郎人事部長は「今、急ピッチで採用を進めている。ただそれ以上に運航便数増がハイペースなので、いま羽田空港の人員だけだと間に合わない状況」と話します。
ANAエアサポートサービスでは採用を強化し、現場スタッフをコロナ前より200人増員。さらに便数が回復しきっていない空港のグループ企業からおよそ60人を派遣してもらうなどして工面しています。
マシンを使った改革
人手不足が課題となる中、西日本最大の空港である関西国際空港ではマシンを使った改革が始まっています。
「ANA関西空港」の20代のスタッフ、徳岡紗由美さんが手に持つリモコンで行っているのは航空機を駐機場から誘導路へ押し出すプッシュバック業務です。通常は特殊な牽引車両で行うため、高度な技術が必要とされ、関西空港では6年目以上のスタッフが半年の訓練を経て担当する業務です。
しかし、リモコンを使って行うプッシュバックは、徳岡さんの手に収まるリモコン一つで、航空機に設置した機械が動き、大きな航空機がスムーズに押し出されていきます。
「実際やってみるとすごく簡単。訓練期間は実質2日間」(徳岡さん)と、訓練期間は半年からわずか2日に短縮。3年目から担えるようになりました。 「すごくうれしい。航空機を押し出す『最後の砦』と言われる業務だが、まさか私もすぐに従事できるとは思っていなかった」(徳岡さん) 効率化が図られる業務は他にもあります。
貨物室の中に特別にカメラが入ると、スタッフ4人がバケツリレーのように荷物を受け渡して積んでいました。この業務を効率化するのがベルトローダーです。貨物室の中に伸ばし、回転するベルトで荷物を運ぶことで、半分のスタッフで積み下ろしができるようになり、体の負担も減ったといいます。
「人手に頼った労働集約型の業務設計でしたので、どうしても男性がメインでパワーでどうにか作業してきたところがあるが、先進機材の導入で誰でもシンプルに簡単に作業ができる業界に変わってきている」(「ANA関西空港」の木村祐太マネージャー)
グラハン確保へ成田の挑戦
一方、日本のもう一つの玄関口である成田空港。ここでは、新たな人材の確保に向けた取り組みが行われていました。
この日、航空業界への就職を希望する人向けの見学ツアーが開かれていました。グランドハンドリングがどのような仕事なのか、実際に作業を行っているところを見てもらい、知ってもらおうという取り組みです。参加した学生からも質問が飛び出すなど、反応は上々のようです。
今回の見学ツアーは成田空港で業務を行う企業による合同の企業説明会に合わせて行われたものです。会場には、グランドハンドリングの他、空港での受付業務を担う企業など30社を超える企業が参加し、300人ほどが来場しました。
「元々、航空業界に興味があったので少しニヤニヤしてしまった。モチベーションが高まった」(参加者)
今回のイベントを主催したのは、成田空港の運営会社である「成田国際空港株式会社」。なぜ成田空港が主導して行うのでしょうか。
「グランドハンドリングや保安検査の会社はどうしても目立たない会社になってしまう。単独ではPRする機会がなかなかないので『ここで働きましょう』という。成田空港の知名度を生かしたイベントでやっている 」(「成田国際空港株式会社」戦略企画室の片山敏宏室長)
成田空港では一時期、グランドハンドリングなどの不足で新規就航が滞りそうになりました。空港会社が中心となって調整し、ほとんどの受け入れが可能に。こうした事態を繰り返さないためにも、人材不足対策に乗り出すこととなったといいます。
「空港の入口のところで人員不足をおこすと、日本全体のインバウンドにも非常に迷惑をかけることになる。空港での人材不足対策をしっかりやっていきたい」(片山室長)
さらに1月。初めて開かれたグランドハンドリングについての労使懇談会。賃上げなどの処遇改善が必要とする意見をすり合わせました。
国交省の調べでは、2022年、グランドハンドリングの平均年収はコロナ禍で賞与などが大幅にカットされた影響もあり、約357万円に。航空連合は2024年春闘で全ての職種で基本給の月額1万円以上の底上げを求める方針です。
ただ、中規模のグランドハンドリング会社の労組委員長はこれを後押しにしたいとしながら、実情をこう話します。
「コロナの影響もあったが一番は賃金面や働き方、労働時間などの条件面で辞めていく仲間が多い。委託元からの契約単価が上がっていかないと、自分たちの給料に反映されていかない」(「羽田空港グランドサービス労働組合」の當間健理執行委員長)
航空会社は今年度、委託費の引き上げを実施。さらなる適正化に向けて、事業者と来年度の交渉を進めているといいます。
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